研究助成金

1. 科研費(研究代表者のみ)

令和345年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C)))「サイコパスなどのダークなパーソナリティ要因が隠匿情報検査に及ぼす影響」(研究代表者:平伸二,課題番号21K03120

日本の犯罪捜査におけるポリグラフ検査は,情報検出に基づく隠匿情報検査(CIT)のみで実施されている。CITは,無実の者を犯人とする誤判定が少ない反面,犯人を取り逃がしてしまう誤判定が個人差要因で生じる可能性がある。本研究では,脳波を指標として,パーソナリティ要因がCITにどのような影響を及ぼすかを検討する。特に,パーソナリティ要因の中でも,Dark Triad(DT)という3つのダークなパーソナリティ(サイコパシー,マキャベリアニズム,自己愛傾向)を取り上げる。脳波によるCITの系統的研究により,DTの情報処理過程の特殊性を明確にして,CITの判定精度を向上させる検査方法を提案する。

現在,日本の犯罪捜査におけるポリグラフ検査は,末梢神経系活動を指標として,情報検出に基づく隠匿情報検査 (concealed information test: CIT) のみで実施している。CITは,情報を知らなければ生理反応も生起しないため,誤判定の極めて少ない検査として国際的にも定評がある。その一方で,犯人を取り逃してしまう誤判定を生じさせる可能性のあるパーソナリティ等の個人差要因については,十分に検討されていない。そこで取り上げるパーソナリティ要因は,Dark Triad (DT) という3つのダークなパーソナリティ (サイコパシー,マキャベリアニズム,自己愛傾向) である。サイコパシーは,表面的な魅力,不安の欠如など,マキャベリアニズムは,操作的な対人戦略など,自己愛傾向は,自己への過度な陶酔などを特徴としている。

2021年度は【実験1】のみを実施した。この実験は,CITへの影響を検討する前段階として,サイコパシー傾向及びDTが,標準オッドボール課題によるP300振幅に与える影響を検証した。その結果,サイコパシー尺度 (PPSP) 及びDTの各尺度は,標的刺激に対するP300振幅に影響を与えなかった。なお,COVID-19の影響で実験参加者が16名と少なかったため,予定していた20名まで実験参加者を増やして再検証した結果,同様の結論となった。これはKiehl et al. (1999)が,P300振幅へのサイコパスの影響を認めた結果と異なっていた。2022年度以降は,標準オッドボール課題から模擬窃盗課題を実施してCITへの影響を検討する。また,刺激として純音ではなく情動要因も含まれた画像刺激も使用する。

2022年度は実験2と実験3を実施した。実験2は「快及び不快画像呈示に対するP300振幅へのサイコパシー傾向及びDTの影響」であり,サイコパシー傾向及びDTが,快画像と不快画像に対するP300振幅に与える影響を検証した。質問紙は実験1と同じであった。画像は国際感情画像刺激集(IAPS) から感情価が1.0-3.9を不快,4.0-6.9を中性,7.0-9.0を快として各10枚合計30枚の写真画像を選択し使用した。実験参加者には,呈示される画面を注視させるだけの受動的パラダイムを用いた。N2振幅はCzP300振幅はPzを分析対象とし,それぞれ200-300 ms 300-600 ms間の最大振幅を求めた。各尺度を高群と低群に分けて行った分散分析の結果では,自己愛傾向の群間に主効果が認められたが,刺激の主効果及び交互作用は認められなかった。また,その他は何れも群間の主効果が認められず,サイコパシー尺度及びDTの各尺度は,N2及びP300振幅に大きな影響を与えていなかった。

実験3は模擬窃盗課題を用いたP300を指標としたCITへのサイコパシー傾向及びDTの影響について検証した。実験参加者は,模擬窃盗課題遂行後,盗んだ品物を脳波測定によるシステムで検出されないように隠匿するように求められた。模擬窃盗課題を実施した結果,P300振幅はDTと各DT尺度において標的,裁決,非裁決の順に有意に増大していることが示された。したがって,P300によるCITにおいて非裁決よりも裁決に対してP300振幅が増大するという先行研究 (, 2009)を支持した。一方,検出率については,すべての尺度において裁決と非裁決の間に大きな差はみられず,実験1と同様にKiehl et al.(1999, 2006)の研究は支持されず,サイコパシー傾向及びDTCITの正確性に影響を及ぼさないことが示唆された。

論文

1. 白尾 綾音・平 伸二・大杉 朱美・皿谷 陽子(2023) 聴覚オッドボール課題における事象関連電位に対するDark Triadパーソナリティの影響 福山大学人間文化学部紀要, 23, 16-24.

学会発表

1. 白尾綾音・皿谷陽子・大杉朱美・平 伸二 (2021) 標準オッドボール課題に対するサイコパシー傾向及びDark Triadの影響 中国四国心理学会第77回大会(安田女子大学)

2. 白尾綾音・平 伸二・大杉朱美・皿谷陽子 (2022) ダークなパーソナリティ要因とオッドボール課題時の事象関連電位――Dark Triadは隠匿情報検査に影響する要因となるか―― 第40回日本生理心理学会大会・日本感情心理学会第30回大会 合同大会2022(関西学院大学)

3. 平 伸二・白尾 綾音・濱本 有希・大杉 朱美 (2023) 快及び不快画像呈示に対する事象関連電位へのDark Triadの影響―Dark Triadは隠匿情報検査に影響する要因となるか― 第41回日本生理心理学会大会(慶應義塾大学)

平成29・30・31年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C)))「国際テロ及び組織犯罪の未然防止に向けた事象関連電位による探索型情報検出の確立」(研究代表者:平伸二,課題番号17K04475))

日本では,平成31年にラグビーワールドカップ大会,平成32年に2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される。両大会は,国際的な注目度の極めて高い行事であり,これらの機会を狙った国際テロへの万全の対策が求められている。たとえば,テロ組織のメンバーやターゲットを特定するための情報収集と分析の強化は重要な課題である。この問題に対し,脳波測定で得られる事象関連電位は,被検査者が持つ有意味な情報を特定することができるため,攻撃日,攻撃対象,実行犯の特定等が可能である。特に,テロリストからは供述での情報が得られにくいため,事象関連電位を指標とした探索型情報検出は有効な方法となる。また,これらの研究成果が,特殊詐欺のような組織犯罪の捜査にも応用可能であることを明確にする。

論文

  1. 平 伸二・植田善博・濱本有希 (2019) 模擬テロ攻撃シナリオによる受動的パラダイムを用いた探索型隠匿情報検査――事象関連電位による検討―― 福山大学人間文化学部紀要, 19, 37-44.

学会発表

  1. Hira,S., Ueda,Y., Saragai,Y., Hamamoto,Y., & Furumitsu, I. 2017 Examination of simultaneous presentation of auditory and visual stimuli during the P300-based concealed information test: Comparison between pictures and words as visual stimuli. 57th Annual Meeting of Society for Psychophysiological Research (Vienna, Austria)
  2. 平 伸二・植田善博・濱本有希・古満伊里 2018 模擬テロ攻撃シナリオによる事象関連電位を指標とした隠匿情報検査 第36回日本生理心理学会大会(北九州市)
  3. 平 伸二 (2018) シンポジウム 「テロの未然防止に向けた探索型情報検出の可能性」 日本心理学会第82回大会(東北大学)
  4. 平 伸二 (2018) 市民公開シンポジウム 「ヒトのウソとウソ発見:犯罪心理学の視点」 中国四国心理学会第74回大会(広島国際大学)

研究会

  1. Program of CIT meeting in Fukuyama 2017
  2. Report of CIT meeting in Fukuyama 2017

図書

平成26・27・28年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C)))「視覚・聴覚同時呈示法を用いた事象関連電位による虚偽検出」(研究代表者:平伸二,課題番号26380973))

視覚・聴覚同時呈示法によるP300を指標とした虚偽検出の効果を検証するため, 6つの研究を3年間で行い,その成果を国内外の学会で発表していく中で,平成26年度は,自己姓を用いた単一プローブ法による検討(研究1),模擬窃盗シナリオ課題を用いた多重プローブ法による検討を行った(研究2)。そして,平成27年度は,視覚・聴覚同時呈示法における文字刺激と画像刺激の比較(研究3)と視覚・聴覚同時呈示法における末梢指標と中枢指標の比較(研究4)を行う予定であったが,研究1と2においてより短時間での検査を目指して,裁決刺激と非裁決刺激の呈示比率を1:1とした結果,十分な成果が得られなかった。そのため,研究3に変えて視覚呈示と聴覚呈示の単独呈示を実施して,研究1,2の同時呈示法と比較した。さらに,刺激呈示間隔を従来の1 s から最大の振幅が得られる4 sに変更して実験を行った。その結果,単独呈示においても,裁決刺激と非裁決刺激の呈示比率を1:1とした場合,両刺激間に有意差が生じないこと,同時呈示と単独呈示間に有意差がなく,裁決刺激と非裁決刺激の呈示比率を1:1から従来の1:4と戻す必要性が明らかとなった。なお,研究4は予定通り実施し,自己姓を裁決刺激として呈示比率1:1で中枢指標の脳波と末梢指標の心拍を計測して比較を行った。しかし,P300においても心拍インターバル(RRI),及び心拍変動から得られる交感神経系と副交感神経系の指標であるHF,LF/HFともに裁決刺激と非裁決刺激の間に有意差が認められなかった。つまり,P300の生起要因である,刺激の有意味性と呈示頻度の低さの両要因が必要であることが再確認された。平成28年度は,まず,視覚・聴覚同時呈示法における文字刺激と画像刺激の比較(研究3)を,裁決刺激と非裁決刺激の呈示比率を1:1で行ったが,いずれも有意差は認められなかった。そこで,視覚・聴覚同時呈示法を継続するが,裁決刺激と非裁決刺激の呈示比率を1:1から従来の1:4に戻して,直後群と遅延群(1ヶ月後)の比較(研究5)を行った結果,両群ともに検出可能性が認められた。最終的に実務で犯罪者が行うカウンタメジャーにどの程度頑健であるかについて検討した(研究6)。

研究成果報告書_平成26~28年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金(基盤研究(C)))

論文

  1. 平 伸二・植田善博・山下勇樹・皿谷陽子・濱本有希・古満伊里 (2017) P300による隠匿情報検査における視覚・聴覚同時呈示法の検討-target・probe・irrelevantの呈示比率1:1:1を用いて 福山大学人間文化学部紀要, 17, 69-80.
  2. 平 伸二・山下勇樹・濱本有希・古満伊里 (2016) 同比率による視覚・聴覚単独呈示法を用いたP300の虚偽検出における加算回数の検討 生理心理学と精神生理学, 34, 印刷中.
  3. 平 伸二・山下勇樹・皿谷陽子・濱本有希・古満伊里 (2016) 同比率課題を用いたP300による隠匿情報検査における視覚・聴覚同時呈示法の検討  福山大学人間文化学部紀要, 16, 99-107.
  4. 山下勇樹・平 伸二・濱本有希・古満伊里 (2015) 同比率による視覚・聴覚同時呈示法を用いたP300の虚偽検出における加算回数の検討 生理心理学と精神生理学, 33, 79.
  5. Hira,S., Yamashita,Y., Saragai,Y., Hamamoto,Y., & Furumitsu,I.(2014)Effects of countermeasures on P300-based concealed information test using a new multiple probe protocol. International Journal of Psychophysiology, 94, 217.  doi: 10.1016/j.ijpsycho.2014.08.865

学会発表

  1. 植田善博・平 伸二・濱本有希・古満伊里 (2016) 視覚・聴覚同時呈示法を用いたP300の虚偽検出における検査時期の検討 中国四国心理学会第72回大会(東亜大学)
  2. Shinji Hira, Yoko Saragai, Yuki Hamamoto, & Isato Furumitsu (2016) The examination of simultaneous auditory and visual stimulus presentation method during the P300-based concealed information test: Using a 1:1:1 target:probe:irrelevant proportion. 31st International Congress of Psychology(Yokohama, Japan)
  3. 平 伸二・山下勇樹・濱本有希・古満伊里 (2016) 同比率による視覚・聴覚単独呈示法を用いたP300の虚偽検出における加算回数の検討 第34回日本生理心理学会大会(名古屋大学)
  4. 山下勇樹・平 伸二・濱本有希 (2015) 同比率課題によるP300を指標とした虚偽検出の視覚刺激と聴覚刺激の比較――刺激間間隔4000 msでの検討―― 中国四国心理学会第71回大会(広島修道大学)
  5. 皿谷陽子・平 伸二・濱本有希・古満伊里 (2015) 視覚・聴覚同時呈示法を用いたCITの同比率課題の検討 日本心理学会第79回大会(名古屋大学)
  6. 山下勇樹・平 伸二・濱本有希・古満伊里 (2015) 同比率による視覚・聴覚同時呈示法を用いたP300の虚偽検出における加算回数の検討 第33回日本生理心理学会大会(関西福祉科学大学)

図書

  1. 平 伸二 (2014) ポリグラフ検査 下山晴彦(編) 誠信 心理学辞典 新版 誠信書房
  2. 平 伸二 (2016) 脳波を用いたポリグラフ検査 越智啓太・桐生正幸(編著) テキスト犯罪心理学 北大路出版 印刷中

平成23・24・25年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C)))「事象関連電位による虚偽検出における新たな多重プローブ法の確立」(研究代表者:平伸二,課題番号23530937)

事象関連電位による虚偽検出における新たな多重プローブ法の確立を行うため,(1)従来の多重プローブ法と新たな多重プローブ法の比較(研究1),(2)新たな多重プローブ法により個々の犯罪事実確認と事件全体関与の判定の可能性検討(研究2),(3)裁決刺激・非裁決刺激の同比率呈示課題の可能性(研究3),(4)文字刺激と画像刺激の同時呈示法の検討(研究4),(5)加算平均処理に必要な最低の刺激呈示回数の検討(研究5),最終的に実務で犯罪者が行う妨害工作(countermeasure: CM)の影響とその対策の検討(研究6)という,6つの研究を行った。

研究成果

論文

  1. 平 伸二・濱本有希・古満伊里 (2014). 新たな多重プローブ法を用いたP300による隠匿情報検査における脳波加算回数の検討 福山大学人間文化学部紀要, 14, 99-106.
  2. Hira,S., Hamamoto,Y., & Furumitsu, I. (2013). Number of averaged electroencephalography epochs for correct detection with a new multiple probe protocol for P300-based concealed information test. Psychophysiology, 50, 43.
  3. 平 伸二・和田健揮 (2013). P300による秘匿情報検査における新たな多重プローブ法の検討―自我関与刺激を用いて― 福山大学人間文化学部紀要, 13, 43-52.
  4. Hira,S. & Saragai,Y. (2012). Simultaneous auditory and visual stimuli presented during a P300-based concealed information test. International Journal of Psychophysiology, 85, 399.doi: 10.1016/j.ijpsycho.2012.07.097

学会発表

  1. Shinji Hira, Yoko Saragai, Yuki Hamamoto, & Isato Furumitsu, Effects of countermeasures on P300-based concealed information test using a new multiple probe protocol. 17th World Congress of Psychophysiology,2014年9月23日(広島市)
  2. 平 伸二・濱本有希・古満伊里 P300を指標とした新たな多重プローブ型CITの検討(3)―項目別判定と総合判定の試み―  第32回日本生理心理学会大会,2014年5月17日(つくば市)
  3. Shinji Hira, Yuki Hamamoto, & Isato Furumitsu, Number of averaged electroencephalography epochs for correct detection with a new multiple probe protocol for P300-based concealed information test.  53rd Annual Meeting of the Society for Psychophysiological Research,2013年10月2日 (Florence, Italy)
  4. 平 伸二 P300を指標とした新たな多重プローブ型CITの検討(2)―加算平均回数の影響について―,第30回日本生理心理学会大会,2013年5月19日(福井市)
  5. 和田健揮・平 伸二 従来の多重プローブ法と新たな多重プローブ法の比較―P300によるCITを用いて―,中国四国心理学会第68回大会,2012年11月10日(福山市)
  6. Shinji Hira & Yoko Saragai Simultaneous auditory and visual stimuli presented during a P300-based concealed information test.  16th World Congress of the International Organization of Psychophysiology,2012年9月16日(Pisa, Italy)
  7. 皿谷陽子・平 伸二 聴覚刺激と視覚刺激の同時呈示によるP300を指標としたconcealed information test,日本心理学会第76回大会,2012年9月12日(東京都)
  8. 平 伸二 P300を指標とした新たな多重プローブ型CITの検討―自我関与刺激を用いて―,第29回日本生理心理学会大会,2012年5月2日,(札幌市)
  9. 皿谷陽子・平 伸二 聴覚刺激と視覚刺激の同時呈示法によるP300を指標としたconcealed information test,日本心理学会第75回大会,日本大学,2011年9月17日(東京都)
  10. 平 伸二・三阪梨紗 新たな多重プローブ法によるconcealed information test-P300を指標として-,第29回日本生理心理学会大会,2011年5月22日(高知市)

図書

  1. 平 伸二 嘘と脳 谷口泰富・藤田主一・桐生正幸(編) 現代社会と応用心理学7 クローズアップ「犯罪」 福村出版 2013 pp. 176-184.

平成20・21・22年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(一般))「P300による虚偽検出の実務導入に向けた諸問題の検討」(研究代表者:平伸二,課題番号20530649)

日本の虚偽検出はGKTという質問法を使用しており,その質問構成はP300を測定するオッドボールパラダイムに類似していることから,P300による虚偽検出の実務導入が期待されている。ところが,P300はμV単位の微弱な脳電位であり,生体由来のノイズであるアーチファクトや体動などの妨害工作に弱いという短所がある。そこで,平成20年度では,アーチファクト対策と妨害工作に関する実験を行い,その対応策を提案する。

平成21年度は,実務検査で行われている複数のGKTを同時に呈示する方法に関し,同じセッションで複数の質問を呈示する多重プローブ法の有効性について検討する。多重プローブ法では,5種類の質問を行う場合,同じセッションで標的刺激1項目,裁決刺激5項目,非裁決刺激25項目をランダムに呈示するため,質問数の増加と検査時間の短縮を導くことが可能である。また,多重プローブ法では,裁決刺激に自我関与刺激が1つ含まれても,他の4つの裁決刺激に認識がなければ,false positive errorを回避できる可能性がある。そこで,裁決刺激に実験参加者の個人的な情報で自我関与の高い刺激を混入させて実験を行う。平成22年度は,平成20・21年度で実験したデータに対し,統計的個別判定を実施する。P300による虚偽検出では,P300振幅を比較する方法とP300の波形の相互相関を比較する方法が考えられる。この両者の優位性に関し個人データを判定するための統計手法(たとえば,データをリサンプリングするブートストラップ法)で確認して,実務検査で必要となる個別判定の基準を確立する。

研究成果

 

論文

  1. 平 伸二 (2009). 脳機能研究によるconcealed information test の動向 生理心理学と精神生理学, 27, 57-70.
  2.  Shinji Hira & Isato Furumitsu (2009). Tonic arousal during field polygraph tests in guilty vs. innocent suspects in Japan. Applied Psychophysiology and Biofeedback, 34, 173-176.
  3.  平 伸二・三阪梨紗・濱本有希 (2009). P300 によるGKT の裁決項目と非裁決項目のP300 振幅・潜時と反応時間の比較 福山大学人間文化学部紀要,9, 75-85.
  4.  濱本有希・平 伸二・大平英樹 (2010 ).  P300を指標としたGKTに対するカウンタメジャーの効果――身体的カウンタメジャーと心理的カウンタメジャー―― 人間環境学研究, 8, 33-38.

学会発表

  1.  平 伸二・三阪梨紗 (2010). 多重プローブ法を用いたconcealed information test-P300を指標として- 第28 回日本生理心理学会大会
  2. 皿谷陽子・平 伸二 (2010). P300を指標とした虚偽検出の音声刺激と文字刺激の比較 日本犯罪心理学会第48回大会
  3. Hira,S., Misaka,R., & Furumitsu,I. (2010). Possibility of new multiple probe protocol of P300-based concealed information tests. 50th Annual Meeting of the Society for Psychophysiological Research(Portland, USA)
  4. 濱本有希・平 伸二 (2009). P300による虚偽検出に対するカウンターメジャーの効果とRTによる監視第27 回日本生理心理学会大会
  5. Shinji Hira (2009). International contributions by Japanese polygraphers to the forensic use of concealed information test. The 8th Biennial meeting of the Society for Applied Research in Memory and Cognition. (Kyoto)
  6. Shinji Hira (2009). Polygraphic examination in Japan: Application of the concealed information test in forensic investigation. International Conference on Asia Pacific Psychology (Yonsei University, Seoul, Korea)
  7. 三阪梨紗・平 伸二 (2009). P300による虚偽検出の音声刺激と視覚刺激の比較 日本心理学会第73回大会
  8. Risa Misaka, Shinji Hira, & Isato Furumitsu (2009). Comparison of auditory and visual stimulus presentation during the P300-based concealed information test. 49th Annual Meeting of the Society for Psychophysiological Research(Berlin, Germany)
  9. 三阪梨紗・平 伸二 (2008). 音声呈示課題によるP300を指標とした虚偽検出の可能性 中国四国心理学会第64回大会
  10. 濱本有希・平 伸二 (2008). P300による虚偽検出に対するカウンターメジャーの効果―身体的カウンターメジャーと心理的カウンターメジャーの比較― 中国四国心理学会第64回大会.
  11. Hira, S., & Hamamoto, Y. (2008). Comparison of critical and non-critical items for P300 amplitude, P300 latency and reaction time on P300-based GKT.48th Annual Meeting of Society for Psychophysiological Research (Austin)

平成18・19年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(一般))「長期間経過後の虚偽検出における犯罪現場の映像による事前呈示の有効性」(研究代表者:平伸二,課題番号18530553,交付金160万円)

映像による模擬犯罪現場の事前呈示がP300を指標とした虚偽検出に及ぼす影響」(課題番号15530483)の発展研究であり,期間を1ヶ月後と1年後を設けると同時に,模擬窃盗課題の中心項目である選んだ貴金属(指輪)と周辺項目である文具(指輪の横のクリップ)を裁決項目として,映像による事前呈示の有効性を検討した。P300振幅は,1ヶ月後,1年後ともに群間(犯罪場面・大学風景)及び条件(中心・周辺)の主効果は認められなかったが,すべての群・条件で標的刺激,裁決刺激,非裁決刺激の順に有意に大きくなった。つまり,映像による事前呈示の有効性は見出せなかったが,1ヶ月後・1年後ともに非裁決よりも裁決のP300振幅が増大しており,P300振幅が実務での虚偽検出の指標として有効であることを実証した。これらの成果は,国際精神生理学会,日本心理学会で発表したほか,平成18年度日本心理学会で企画したワークショップ「犯罪捜査における記憶検査-ERP,fMRI,NIRSによるウソ発見-」の内容とともに虚偽検出の研究者に向けて配布する。

平成15・16年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))「映像による模擬犯罪現場の事前呈示がP300を指標とした虚偽検出に及ぼす影響」(研究代表者:平伸二,課題番号15530483,交付金170万円)

P300と呼ばれる事象関連電位は,有意味な刺激に対する情報処理を反映するため,虚偽検出の有効な指標となることが認められている。しかし,多くの研究は,検査直前に模擬窃盗課題などで実験参加者が選択した物を検出対象としている。ところが,実際の犯罪捜査での虚偽検出は,犯行の日に検査することは極めてまれである。そこで,まずP300による虚偽検出の長期間経過後の有効性について検討した。その結果,1ヶ月経過した時点でも非裁決項目に比較して裁決項目のP300が有意に増大し,P300による虚偽検出の有効性を示した(平成15年度実施)。この実験では,10名中2名が1ヶ月経過した際に,模擬窃盗課題で何を選択したかを忘れていた。したがって,正検出率を向上させるため,検査前に模擬窃盗犯罪の部屋をビデオで鑑賞させ,記憶の文脈効果から再生率を向上させる実験を行った(平成16年度実施)。その結果,模擬窃盗犯罪の部屋を鑑賞した群では10名中9名,犯罪と無関係の中性的なビデオを鑑賞した群では10名中8名の正検出率が得られた。現場では,1年を超える検査も行われることから,さらに長期間の有効性に対する検討を課題として提起した。なお,これらの成果は,研究成果報告書(全48頁)として印刷し,全国の科学捜査研究所をはじめ,虚偽検出の研究者に向けて郵送配布した。その他,心理学評論,福山大学紀要,東亜大学紀要に論文として掲載したほか,国際精神生理学会,日本心理学会,日本生理心理学会で発表した。

平成9年度科学研究費補助金「研究成果公開促進費」(研究代表者:平伸二,申請番号92004,交付金 130万円)

研究成果公開促進費の補助を得て,「表出行動とウソ発見の心理学」(多賀出版,315頁)を出版し,従来の末梢神経系と中枢神経系を指標とした虚偽検出の特徴についてまとめた。この総説と著書は,日本の警察関係者にコンピュータによる自動処理と事象関連電位の有効性を認識させ,警視庁,静岡県警,山形県警などへの脳波計導入を促した。さらに,従来の末梢神経系のみを測定するアナログ式の携帯型ポリグラフから,事象関連電位・脳波も測定可能な携帯型デジタルポリグラフの開発が,科学警察研究所によって実施され,各都道府県の科学捜査研究所へ配備されたが,その仕様決定に「表出行動とウソ発見の心理学」は大きな影響を与えた。

平成8年度科学研究費補助金奨励研究(B) 『脳波による「ウソ発見」検査の実用化に伴う諸問題の検討』(研究代表者:平伸二,課題番号08905006,交付金21万円)

事象関連電位を指標とした虚偽検出の実験研究から,①実務でのデータ収集,②個別判定の基準,②アーチファクトの除去の課題を見いだし,その課題と解決方法を日本鑑識科学技術学会誌へ「事象関連脳電位による虚偽検出」という総説(1998年,第3巻,21-35頁)としてまとめた。

その他の助成金(研究代表者のみ)

  1. 平成21年度 福山大学・大阪府箕面整備事務所・広島化成株式会社共同研究 青色LED・白色LED複合照明の犯罪抑止効果及び事故防止効果等について
  2. 平成20年度 福山大学・大阪府茨木土木事務所・広島化成株式会社共同研究 青色LED・白色LED複合照明の犯罪抑止効果及び事故防止効果等について
  3. 平成18年度 大阪府委託研究 青色LED照明灯の犯罪抑止効果等について
  4. 平成18年度 福山市委託研究 「子どもの安心・安全」啓発映像物の作製
  5. 平成13年度~14年度 サントリー文化財団研究助成 高齢者のためのバリアフリーホームページの研究~白内障の視認性を高める色彩コントラストについて~